1.免疫関連
IL-6/IL-12サイトカインファミリーは、とてもユニークなサイトカイン自身が2つの異なるサブユニットからなるヘテロダイマーで、さらに、そのサブユニットが共有されているという特徴を有している。この特徴は、2つの既知の分子でも、組み合わせを変えて会合が見られれば、新規の機能的なヘテロダイマーを形成する可能性を秘めている(Hasegawa et al. Front. Immunol. 2016)。その作用機序の1つとして、このファミリーの共通サブユニットの1つEBI3が、炎症が起きると発現誘導され小胞体において分子シャペロンであるカルネキシンとの結合を介し標的分子の蛋白質レベルでの発現を増強する新しい機構を明らかにした(Mizoguchi et al. J Clin Invet. 2020)。p40についても同様な作用が見出され、このファミリーのヘテロダイマー形成の作用機序の1つと考えられる(Watanabe et al. Front Immunol. 2021)。また、IL-23のサブユニットの1つp19が、CD4+T細胞から分泌され脂肪代謝を調節し、病原性Th17分化に重要な転写RORγtの機能を抑制し病原性Th17への分化の抑制因子であるCD5 antigen-like(CD5L)と会合し、新規のサイトカイン様のヘテロダイマーを形成することを見出した(Hasegawa et al. Sci Rep. 2021)。レセプターの1つとしてIL-23Rαを用い、STAT5のリン酸化を介し、CD4+T細胞からのGM-CSF産生を増強し、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の発症を促進している。現在、さらに、CD5Lの変異体を作製し会合部位を同定し、蛋白質の立体構造解析やもう1つのレセプターの同定、他の産生細胞の解析などを行っている。
近年、p38 MAPキナーゼの阻害が、乾癬発症を抑制することが明らかになってきているが、その上流のストレス応答MAPキナーゼApoptosis signal-regulating kinase 1(ASK1)は、TNF-αや活性酸素、Ca2+などで活性化され、角化細胞の分化を誘導する。そこで、ASK1欠損マウスを用いてイミキモド(IMQ)誘導性乾癬モデルへの感受性を検討したところ、p38の関与とは反対に、ASK1はむしろ乾癬発症を抑制した。その作用機序として、ASK1がCD4+T細胞のTh17/22分化や角化細胞の分化に重要な芳香族炭化水素受容体(AhR)と会合し、その発現を抑制していることを見出し、さらに、検討を続けている。
2.がん関連
今日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンとして、mRNAワクチンの有効性が世界で実証されている。その投与方法は、有針注射器による筋肉注射であるが、最近、皮膚には常在性の樹状細胞(DC)が多数存在し、皮内注射の方が、ワクチン誘導の効率が良いことや、さらに、有針注射器に比べ、無針注入器は、発現効率や安全性の面でメリットが大きいことが明らかになってきている。そこで、最近開発された火薬の燃焼エネルギーで駆動する新規の無針注入器(PJI)を用いて、抗腫瘍免疫誘導能力を検討したところ、卵白アルブミン(OVA)DNA発現ベクターの皮内投与により、有針注射器より高い蛋白質発現を誘導し、特に抗原特異的細胞障害CD8+ T(CTL)細胞の誘導を介して、強力な抗腫瘍免疫を誘導することを見出した(Inoue et al. Cancer Sci. 2022)。DNAの発現ベクターであるのみならず、PJIによる流速の早い遺伝子導入によりさらにシェアストレスなども増強され、DCの内在性分子に対するMHCクラスI経路を介して、細胞性免疫が特に増強されたと考えている。さらに、このPJIを用いてアジュバントを加えずに蛋白質投与のみでも、抗原特異的細胞性免疫を増強することも見出し、アジュバントフリーのワクチン療法として、さらに、検討を続けている。
間葉系幹細胞(MSC)は、他家骨髄由来MSCを用い移植片対宿主病(GVHD)や他家脂肪組織由来MSCを炎症性腸疾患のクローン病に対する細胞療法が再生医療等製品として認可されているが、他家幹細胞移植の倫理面や臨床応用の利便性、免疫拒絶、腫瘍形成促進作用などが懸念される。MSCの治療効果は、主に分泌される液性因子のパラクリン効果によることから、MSCの細胞培養上清(Conditioned Medium: CM)の投与が、細胞フリー療法として、倫理や免疫拒絶の心配がなく注目されている。ところが、そのMSC-CMの腫瘍形成への影響やその作用機序は不明のままである。ヒト骨髄MSCよりCMを調製し、複数のヒトおよびマウス腫瘍細胞株のin vitro培養系に加えると、腫瘍増殖を抑制した。さらに、そのCM中のサイトカインを抗体アレイを用いて解析したところ、Insulin-like growth factor binding protein (IGFBP)-3,4,6が多く含まれ、IGFBP-4の中和抗体で増殖抑制効果がキャンセルされ、CMをマウスに投与しても腫瘍形成を抑制する結果を得た。MSC培養上清の投与により、より安全性の高い細胞フリー療法の開発を試みている。
3.再生医療関連
MSC培養上清を用いた細胞フリー療法として、ヒト脱落乳歯由来の歯髄幹細胞(SHED)に不死化遺伝子を導入して不死化した細胞株を作製し、その培養上清(SHED-CM)を用いて、種々の疾患モデルへの治療効果を検討している。まず、SHED-CM中のサイトカインや増殖因子を抗体アレイを用いて定量し、エクソソーム中のmiRNAについてもアレイを用いて網羅的に発現解析した。この不死化SHED-CMには、プライマリーSHEDに比べ、約10倍の各種サイトカインを安定的に産生することがわかった。さらに、マウスの背部に2つの円形磁石で挟み皮膚虚血再灌流を誘導し潰瘍を形成させる急性期の褥瘡モデルを作製し、この培養上清の潰瘍形成の抑制効果やその作用機序についても検討している。その結果、SHED-CMの皮内への頻回投与が、褥瘡の潰瘍形成を抑制し、その作用機序としてHGFやVEGFが関与していることが、抗体を用いた免疫沈降反応による培養上清からの除去により示された。さらに、SHED-CMが、血管新生の増強や、酸化や小胞体ストレスを抑制することもわかった(論文投稿中)。
元々歯髄は神経細胞由来なので、神経疾患に治療効果が高いのではと考え、自己免疫性の末梢神経障害の病気であるギラン・バレー症候群(GBS)のマウスモデルである実験的自己免疫性神経炎(EAN)への治療効果とその作用機序を検討している。さらに、同様な末梢神経障害として化学療法の副作用として、痺れなどが問題になっており、この化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)の疾患モデルマウスを用いて、その治療効果も検討している。
4.ヒト免疫反応のin vitro細胞培養系構築関連
近年、動物愛護や福祉の観点から世界的に動物実験を削減・中止する3Rsの動向により、医薬品等の安全性評価に関するin vitro試験代替法の開発が産業界のみならず社会的にも急務とされている。現在、いくつもの代替法が開発されているが、いずれも、単独では、従来の動物を用いる試験法を代替することは不可能とされている。これは、感作性の有害性発現経路(AOP)のKey event 1〜3に相当する初期の機序を反映した方法であるため、生体内でのアレルギー発症により近いKey event 4のT細胞の活性化や分化誘導を指標にした方が、より確度は高いと考えられる。さらに、安全管理上の危機管理態勢が大きく異なるにも関わらず、皮膚と呼吸器の感作性を識別可能な代替法は、未だに報告されていない。そこで、ヒト気道上皮組織を模倣した新しい3次元上皮細胞(E)/樹状細胞(DC)共培養系を構築し、代表的な皮膚および呼吸器感作性化学物質を用いて、DCのTh2分化に重要な共刺激分子OX40Lの発現増強を指標に、両者の感作性化学物資の識別が可能な代替法を開発した(Mizoguchi et al. Front. Immunol. 2017)。現在、さらに、そこへCD4+T細胞も加えた2ステップの3次元E/DC/T共培養系を開発し、感作性AOPのKey event 4のT細胞の活性化やエフェクターTh(Th1/Th2/Th17)への分化誘導を指標に、感作性やアレルギー誘発性を評価する代替法の開発を検討している(Mizoguchi et al. ALTEX 2022)。また、末梢血単核球に細胞周期や細胞増殖に関わる遺伝子を導入し、単球細胞株(CD14-ML)やTh細胞株を用いて汎用化も目指している。さらに、抗体産生産生細胞への分化能を有するB細胞株の作製も試みており、これらを組み合わせることにより、抗原特異的なT細胞依存性抗体産生のin vitro細胞培養系の構築も試みている。
以前に、美白化粧品として商品化されたチロシナーゼ阻害剤ロドデノールを含んだ化粧品が、副作用として白斑を誘導することがわかった。この現象は、免疫学的にとても興味深く、ロドデノールがチロシナーゼに結合しキノン体に酸化され、このキノン体がハプテンとしてチロシナーゼやメラノサイト内の蛋白質と結合し感作性を誘発し、メラノサイト特異的にCTLを誘導し、メラノサイトが傷害させるために起こる自己免疫性の白斑症である考えている。そこで、通常の感作性を評価する皮膚感作性試験代替法h-CLATを用いて、ロドデノールでTHP-1細胞を刺激しても、感作性のマーカーである共刺激分子CD86の発現増強は顕著には見られなかった。ところが、この培養系にヒトメラノーマ細胞(SK-MEL-37)を加えた共培養系で、THP-1細胞を刺激すると、CD86発現増強が顕著に見られた。この際、ロドデノールで刺激されたメラノーマから活性酸素やATPが産生され、これらがTHP-1でのCD86に関与していること、さらには、IL-12のmRNAレベルでの発現も増強され、これらの分子が関与していることも見出した(論文投稿中)。ロドデノールのような酵素や分子の低分子化合物の拮抗阻害剤がアレルギーや自己免疫様の症状の発症に関与している可能性が意外と多いのではないかと考えている。